セラピストが知っておきたい20の質問

熊本機能病院併設 介護老人保健施設 清雅苑より
交流研修にてリハビリを行う理学療法士
 養成学校を卒業して老人保健施設に就職するときや病院から老人保健施設への転職を考えたとき、どんなセラピストでも不安になると思います。しかし、老健で働くことで病院とは異なるやりがいやスキルを手に入れることができるのも事実。「施設勤務の基本」についてお答え致します。
 
附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターで”働く前”に知っておきたいこと。
Q1.介護老人保健施設(老健)にセラピストが配置されていることによる役割や責務は何でしょうか?
A.老健の役割からセラピストは不可欠。チームリハビリのリーダーも務めます。
 老健は在宅支援や病院からの在宅復帰、すなわち利用者が「自宅で生活ができるようになること」が一番の目的なので、ADL(日常生活動作)を高めるリハビリを担うセラピストは、老健にとって絶対不可欠な存在です。介護保険法では老健の定員100名につき最低1名の常勤リハビリ専門職の配置が基準です。附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターのセラピストは利用者に対して週に2度、1回20分程度のリハビリを行う他、リハビリ専門職の立場から、日常的なリハビリ計画を立てて他職種を指導・監督します。
日常的なリハビリとは食事や排泄など日常動作の過程で、膝の屈伸やベッドから立ち上がるなど、ちょっとした動きのトレーニングを日々の生活のなかで訓練を重ねるもの。これを直接行うのは、介護職や看護職です。まとめると、直接のリハビリ訓練と日常的なリハビリ計画の立案・マネジメントが老健におけるセラピストの責務と言えます。

Q2.老健のセラピストが心がけるべきことは?
A.「生活ができるようになるためには」という視点を常に持ってください
 何よりも利用者の「生活」をよく知ることです。入所リハビリなら自宅に戻ることを想定して家族の要望も踏まえ、家での生活が成り立つようなリハビリプランを立てます。例えば自宅に車いすで行き来できるスペースがないため、「車いすなしで歩けるようになってもらわなければ、在宅介護は難しい」という家族からの相談に対しては、歩行可能かどうかの評価を行った上で、無理のないプランを立て検討・実施します。「着替えが一人でできる」「口から食事ができる」など、自宅で生活するのに必要な日常動作を訓練するには、利用者の生活の場や日常生活の様子を知らなければなりません。居宅訪問時に生活環境をよく観察するとともに、入所・通所・訪問リハビリを問わず、日頃から利用者または家族から話をよく聞くことを心がけてください。

Q3.施設でも臨床スキルを落とさないために、いちセラピストとしてできることは何ですか?

A.リハビリの最前線を学ぼうという意欲があればスキルが落ちることはありません

 やはり、個人的に勉強することです。「どうしていいかわからない」ということがあれば、誰でも自分で調べると思います。あるいは機能訓練に関する理論、手技についての勉強会に参加して吸収することもできます。臨床スキルがどうなるかは働く場所の問題ではなく、あくまでも個人の努力といえます。

Q4.老健と病院との大きな違いはどこですか?

A.治療の場と生活支援の場の違い。リハビリの目的も異なります
 病院は「治療」の場であり、老健は「在宅支援の場」と目的が明確に違います。病院におけるリハビリは、病気によって引き起こされた機能障害に対して行われます。例えば脳梗塞による麻痺を少しでも軽くする、骨折であれば手術後の歩行訓練を行う、心筋梗塞であれば循環器の回復に働きかけるリハビリなどです。一方老健では、容態は落ち着いているけれど、まだ不自由なことが多かったり、少し認知症が入ったりと、「生活」の面で安定していない人に対して、日々の生活が成り立つリハビリを行います。リハビリ訓練そのものは似通って見えるかもしれませんが、目的が「治療後の身体機能の回復(病院)」「生活するうえで必要な動きを訓練する(老健)」と、明らかに異なります。
Q5.施設への転職を考えていますが、「施設勤務に向いていない」あるいは「長続きしない」という人の特徴はありますか?
A.他者を尊重し受け入れる気持ちがなければ、老健のセラピストは務まりません
 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターでは医師をはじめ、介護職や看護職など多職種との連携・協力が不可欠です。その点からいえば、コミュニケーションの苦手な人はどこでも難しいでしょう。特に大切なのが相手の話をしっかり聞く力。老健をはじめとした高齢者施設には、話したくても言葉がなかなか出てこないといった利用者もいます。せっかちな人、短気な人も向いていないかもしれません。
 また附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターの特色は、介護職や看護職を含めたチームでリハビリに取り組むことです。仕事を一人で抱え込みがちで、「他人に任せられない」と思う人も要注意です。リハビリのリーダーを務めるにあたり、専門職としての自信やプライドは大切ですが、看護職や介護職は“部下”ではありません。それぞれの職種に対する尊敬の念を失わないように心がけてください。
Q6.困ったときに相談できる体制がありますか?
A.上司や生愛会グループの仲間に相談できます。地域の勉強会も活用を
 生愛会グループには先輩セラピストの他、看護職や介護職など、多職種が関わっており、職種を問わず困り事を相談することができます。また、養成校の同級生の中でも同じ分野で働いているような人を頼ってもいいのではないでしょうか。
 また、セラピスト同士の地域のつながりも増えてきているので、地域の勉強会などに参加をすれば、情報を集めることもできると思います。
Q7.特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、老健ではセラピストの働き方は異なりますか?
A.通所、在宅リハビリも含めて、全ての利用者を支援するのが老健です
 特別養護老人ホームや有料老人ホームには、最期の時まで過ごす「終生施設」の側面があります。また、いわゆる「従来型」とされる老健もその役目を担っています。在宅復帰を含めた在宅支援を主目的とする老健とは役割が異なりますが、できるだけ残存機能を維持し寝たきりにならないためにも入所者へのリハビリは必要です。ただし老健と比べると、直接の訓練やチームリハビリにしても、対象者やその手法は限定的になるようです。
 老健と終生施設の最も大きな違いは、老健は自宅での生活とその維持を念頭に置いているところです。入所者に対しても自宅で生活するための訓練を行いますが、通所・在宅リハビリでは、より利用者の生活を間近に感じながら、リハビリを組み立てることができます。終生施設と比べると、老健では入所者には万遍なくしっかりとADL向上支援を行ない、通所・在宅リハビリで生活者を支えるといった違いがあるでしょう。
Q8.入所・通所のリハビリでそれぞれ気を付けるべきことを教えて下さい。
A.利用者の変化を見逃さず、一人一人の生活を想定したケアプランを
 大雑把な言い方をすれば、通所の方は自宅から通いますので、それだけ身体能力が高いと言えます。しかし、入所している方のほうが元気な場合もありますし、通所の方でも「これで一人暮らしをしていけるの?」と思うような方もいます。入所・通所に関係なく、一人ひとりの生活を想定しながら、評価して分析し、目標・プログラムを立てて実践することが大切です。
 入所リハビリに関しては、実際に介護を担当するケアワーカーとのコミュニケーションが大切だと思います。毎日の様子を細かく見ているスタッフなので、情報収集が欠かせません。通所リハビリに関しては、利用者のどんな小さな変化も見逃さないことが大切です。血圧や顔色はもちろん、いつもの行動パターンが今日は見られないなどの変化も。そうすることで、例えば自宅で転んだとか夜眠れなかったとか、機能低下につながる出来事を聞き出しやすくなり、適切なリハビリにつなげることができます。
施設での“具体的な業務”にまつわる質問
Q9.附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターの入所者の方が抱えている疾病や障害はどのようなものが多いのですか?
A.疾病や障害の種類はさまざま。認知症との合併症が多いのが特徴です
 脳疾患やその後遺症である麻痺・失語症をはじめ、高血圧、糖尿病と皆さん様々な病気や障害を抱えており、どれが多いとは言えません。ただパーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)といった医療保険指定の難病は、介護保険下にある老健では高額治療費の助成が難しく、医師も少ないことから受け入れにくいのが現状です。他の傾向としては、7割から8割ほどの利用者が認知症との合併症です。
 要介護度で言うと、今の老健は大きく「在宅強化型」「在宅支援加算型」「従来型」の3つに分けられますが、いずれも要介護度の分布は同じです。
附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターは「在宅強化型」老健です。
Q10.「在宅強化型」老健とは何ですか?
A.入所者の在宅復帰に積極的に取り組んでいる老健です。生愛会もその一つです。
 「在宅強化型」老健とは、3つの要件を満たし在宅復帰を推進している介護老人保健施設です。本来の老健施設のあるべき姿とも言えます。附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターでは、年間を通じて下記の算定要件を満たしており、平成24年4月からの介護保険改正より、現在まで継続して在宅強化型老健として算定を行っています。
 その3つの要件とは、
@過去6ヶ月の在宅復帰率が50%以上
A過去3ヶ月のベッド回転率が10%以上
B過去3ヶ月の要介護4・5以上の利用者割合が35%以上
 (例:100人の入所利用者のうち35人以上)
算定要件を満たすための取り組みという視点ではなく、老健の役割である在宅生活支援にいかに取り組んでいくかということを、生愛会では大切にしています。
Q11.多職種との連携はどうなっていますか?
A.日々さまざまな場面で連携が必要とされています
 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターのリハビリでは、多職種との連携を図ってこまめに情報共有し、チームリハビリを展開していくことが求められています。利用者の状態を記録に残し、訓練中に起こった変化をリハビリスタッフ側からも多職種に向けて申し送りしています。
 医師や看護師に利用者の症状について確認したり、トイレ動作など日常生活動作についてはケアワーカーと相談をしたりしています。
Q12.医師との連携や指示の受け方は、どのように行われるのですか?
A.医師が的確な指示を出すためにも日頃の情報共有、コミュニケーションが大切
 老健の管理者は医師であることが資格要件なので、多くの場合、施設長を務める医師から指示を受けます。老健ではリスク管理も踏まえて、リハビリの開始や経口摂取の再発など、どんな細かいことも必ず医師が判断して各職種へ指示します。
 その判断の根拠となるのは、利用者の日常の様子やリハビリの進み具合であることも多く、普段から利用者の情報を医師と共有することが大切です。また医師にとっても、セラピストの人柄はもちろん、スキルはどの程度かなど「任せられること」を知っておいた方が的確な指示を出しやすくなります。病院以上に日頃のコミュニケーションが重要な職場です。
Q13.介護業務(入浴・食事・排泄の介助)はどの程度対応する必要があるのでしょうか?
A.リハビリ専門職ですから、「業務」として対応することはありません。しかし、入所者の生活場面に大きく関わっていく必要は大いにあり!
 施設によって異なるとは思いますが、「人手が足りないから(介護を)手伝って」ということはありません。確かに食事やトイレの介助はリハビリではありませんが、“生活の一場面”が見られるという点ではいい機会といえるのではないでしょうか。
 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターでは、入所者が在宅復帰して自宅で生活する場面を想定して、そのニーズに深く関わっていく必要があります。リハビリ以外にも利用者と関わる時間が増えるのは、悪いことではありません。
「医療が上」で介護は下に見られがちだと思っている介護職の方も多いかもしれません。セラピストは利用者に名前と顔を覚えてもらうことも大切ですが、同じ場所で働く介護職に性格や考え方を含めた“自分”をわかってもらう努力も大切です。それには少しずつコミュニケーションをとって、周囲からの信頼を勝ち取るしかありません。そのためにも、必要とされる仕事には進んで取り組む姿勢を見せてください。
Q14.老健の設備にはどのようなものがありますか?
A.数は病院より少ないものの、ほぼ病院と同様の設備があります
 設備内容は、病院とほぼ同じといえます。治療用ベッドとしてプラットホーム、トリートメントテーブル、歩行訓練用の平行棒、在宅復帰練習用の階段、温熱療法のホットパック、立座り練習の練習用腰かけ、床上動作練習用のマット、全身運動用のNu-ステップ(ニューステップ)など。その他には筋トレ、上肢の訓練、作業用の細かなものなどもあります。また、ST訓練用の言語機能検査やスポンジブラシ、ガーゼ、綿棒など専門的にSTの訓練を行う品物も揃えています。
 その他、発声練習や言語療法を集中的に行うためのSTの個室が1部屋あります。STが訓練に使用しているほか、外部の声が聞こえにくい構造なので、ST以外のセラピストが注意障害のある方に注意の持続性や配分性などを見る検査を行うことも。認知症の検査を行うこともあります。
 「病院との違い」ということでしたら、設備よりもリハビリへの介入頻度や仕組みが異なることの方に戸惑うかもしれません。病院よりも長い期間、利用者に関われることが老健の魅力だと思います。
Q15.急性期や回復期のリハビリとは、大きくどの部分が異なるのでしょうか?
A.リハビリを受ける人の状況と意識する点が違います
 急性期、回復期、療養病棟と病院にも種類がありますが、大きな違いは実施単位の違いくらいです。また、高齢者が対象なので、どうしても複数の疾患を抱えている利用者が多くなります。リスク管理も必要ですし、様々な疾患についての知識が必要とされます。
 病院だとPT・OT・STと専門分野が分かれる形で対応しますが、老健ではOTが歩行訓練をするなど幅広い対応が求められることがあります。
 また、人生経験の先輩として利用者を敬いつつ円滑なコミュニケーションを図るためのスキルが大切です。私達は「感謝、謙虚、笑顔」をモットーとしています。
Q16.研修の体制はどのようになっていますか?
A.標準的な研修に加え、外部研修や勉強会も充実しています
 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターでは、施設内研修を毎月開催しています。内容は認知症の人への対応や感染症対策、リスクマネジメント、接遇・マナーなど多岐にわたります。その他、協会団体などから講師を招いて開催する研修もあります。新入職員には必ずオリエンテーションを実施します。
 また附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターでは週に一度、新規入所を申し込まれた方の医療情報を共有しながら入所を決める「判定会議」があります。医師や看護師、ケアワーカー(介護福祉士等)、管理栄養士、ケアマネジャー等と意見交換しますので、多職種とのコミュニケーションはもちろん、実地で勉強できる貴重な機会です。
Q17.残業や夜勤はありますか?
A.夜勤なし。残業はあってもそれほど遅くなりません
 基本的に老健のセラピストには夜勤はありません。残業は月に15時間から20時間程度で推移しています。一日に直すと30時間程度です。もちろん残業ゼロの施設も少なくありません。残業の内容は、カンファレンスが長引いたり、翌日のカンファレンス資料を作成したりといった、対利用者以外の業務が殆どです。
Q18.施設では病院に比べるとセラピストの配置が少ないのではと思いますが、連休や急なお休みの取得は相談できますか?
A.長期休暇は利用者に周知して取得。リハビリは介護職(ケアワーカー)へ引き継ぎます
 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンターではセラピスト同士、リハビリ回数に穴をあけないようにお互い融通しています。リハビリ回数を減らさないよう、お互いにやりくりしています。

熊本機能病院併設 介護老人保健施設 
清雅苑より交流研修にて
リハビリを行う作業療法士
Q19.お盆や年末年始の休暇はあるのでしょうか?
A.お盆や年末年始に休むことは可能です
 決まった年末年始休みはないのですが、その間、リハビリが必要な人にリハビリができないことになってしまうので、そういう場合は途中で1日だけセラピストが出勤する場合があります。
Q20.育児中です。小さな子どもを育てながら勤務する場合、時短制度などは使えますか?
A.スタッフ同士で時間をやりくりしています
 時短制度はもちろん利用できます。子どもの具合が悪い日は有休を使うこともあります。午前休・午後休を取ってやりくりしているセラピストもいます。
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